(7)
「はい、アルコール中和剤のアンプルと、それからお水」
エメラルダスはフロントからもらってきたアンプルの中身を水に溶かしメーテルに飲ませた。
「ほんとに浴びるほど飲んで・・・いくら生身の人間の女性よりアルコール耐性があるといっても、程度というものがあるわ・・」
「・・・・ごめんなさい・・・」
ベッドの端に腰掛け薬を飲むメーテルの様子を傍らに腰を降ろし見守る。
ふとエメラルダスは、メーテルの小さな変化に気付いた。
(明るくなった・・・・)
彼女から得られる印象が、以前に比べ見違えるほど明朗に見えてきているのだ。
服装に変化が見られている・・・
見慣れた漆黒のコートを脱いだ姿は、淡いピンク色したニットに、淡茶色のスエード調のロングフレアスカート。
彼女の纏う明るい色合いの服は、メーテル本来の清楚な愛らしさを際立たせていた。
そういえば・・・
どのくらいの年月がたっただろうか。彼女が漆黒しか纏わなくなってから・・・
コーディネートされた幾つかの色合いの中の一つとして身に付けられた漆黒は、単純にファッションセンスと評価していい。
だが、メーテルの場合は・・・
ファーであしらった帽子から、全身をスッポリ包み込むコートやブーツ。
それだけならまだしも、コートの中から垣間見えるアウターからインナーまで、見に纏う全てが飾り気一つ、違う色合い一つ無く、全てを真っ黒で染め上げてしまった彼女の姿はもはや、清楚ではあるが華やかさ一つ見当たらぬ、どこか暗く陰鬱な印象を人に投げかけていた。
それは喪に服するものの姿。
ともに旅してきた多くの若者を全て惑星の生けるパーツへと追いやってしまった、暗く悲しい過去への贖罪。
生涯背負い続けて行く贖いとして選び取った彼女の姿・・・
しかし・・・
永遠に続く闇も一瞬の光芒で潰え去るーーーーはるかな昔、誰かが語った言葉を、エメラルダスは、ふと思い出した。
晴れぬ闇は無いのかもしれない・・・・・
メーテルにとっての一瞬の光芒・・・それが鉄郎だったのか・・・
彼女を取り巻く永遠とも思える闇を打ち払い、明るい陽のあたる場所へ誘う確かな存在――――
それが、彼――――?
メーテルはコップの薬を飲み干すと、コップを両掌に包み込み、小さく溜息をついた。
そんな彼女の様子を見守りながら、エメラルダスはさりげなく問いかけた。
「追跡システムか・・・・そんなものを鉄郎に持たせているなんてね・・・宇宙の果てまで見通せそうな”千里眼のメーテル“らしくないわね、正直驚いたわ・・」
メーテルは、空のコップをじっと見つめながら、ポツリと呟いた。
「私には、何故か鉄郎は見えないの・・・初めて出会ったときからそうだった・・・どんなに目を凝らしても、耳をそばだてても、彼の姿を遠くから見出すことは出来なかった・・・こんなことは初めてよ。唯一彼の姿を見出すのは、鉄郎自身がオーラを強く外に放つときだけ・・・」
「そう・・・」
「・・・私には、彼の姿だけは見出せない・・・こんなに不安なことは、今まで無かった・・だから、あの電話を彼に渡したのだけど・・・」
「恋は盲目なのかしら?・・・それとも、もしかすると、ウィザードなのかもね、彼・・・」
「わからないわ・・・」
「ファウストは、アンドロメダ屈指のダイバーフォースの持ち主だったけれど?でもまあ、それが高じて、犬も食わない何とやら?」
「もおっやめて、エメラルダス!私達、そんな・・・」
頬を染めてうろたえるメーテルの思いもよらない姿に、どこか安堵しつつ、解ってるわ。とエメラルダスは笑った。
でも・・・とメーテルは言いよどんだ。
「私と鉄郎のスタンスって一体なんなのだろうって、時々混乱するときもあるし、悩むときがあるの・・・母親ぶるな、って、夕方鉄郎に怒鳴られてしまった・・・・私、そんなつもり無いのに・・・」
「鉄郎は子供っぽい?」
「いいえ、そうは思わないけれど・・・」
「恋人として接したい。けれど気持ちが踏み込みきれない・・というところかしら?ま、鉄郎には悪いけれど、見掛けが子供だから無理も無いか?」
しれっと言ってのけるエメラルダスをメーテルはキッと見つめた。
「そんなことないわ!私は・・・・でも、彼にはまだ手を掛けなければならないんだとつい思ってしまったり、そうかと思うと、彼が他の女の子に気を引かれようとすると、酷く落ち着かなくて・・だめだ、大きな気持ちになってあげないといけないと思うけど・・なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃになって・・・」
「母親半分、恋人半分ってとこ?・・・そうねえ・・・でも、鉄郎は、立派な大人よ。私にははっきり解ったわ。あなたは子ども扱いしたいかもしれないけれど、もう母親代わり、なんて気持ちで彼に接するのはやめたほうがいいわ。鉄郎にとっては鬱陶しいだけ。」
「・・・・」
むっつりと黙りこくったメーテルを横目で見やると、
「ま、あなたは子供の頃から好きになったものにはとことん執着して独り占めしたがってたわよねえ。それはこの私が許さなかったけど・・それに、あなたがこんなに嫉妬深いなんて初めて知ったわ」
組んだ足に頬杖ついてメーテルを見て、ニタッと笑う。
メーテルは少しうっ、と息を詰めたが、手にしたコップに目を落とし、ぐりぐりと弄びながらぼそぼそこぼす。
「だって仕方ないじゃないの、不安になるんですもの。鉄郎が私から離れて行きそうで・・・携帯に出たブティックの列を見て悔しくて、鉄郎が手を繋ぐ女の子の顔を想像して嫉妬して・・でも、鉄郎はまだ17歳だし・・そうよねえ、同い年の女の子に惹かれるのは自然だし仕方ないか・・・そうだったら相手は若いし、私はこんなオバサンだし・・・どうあがいても勝ち目はないし・・」
ちょっと、オバサンはあんまりじゃないの、とエメラルダスは苦笑した。
「そう思うと悲しくて・・・お酒で酔いつぶれて気を紛らしでもしないとおもって、お店に行ったのだけど、飲めば飲むほど冴え冴えしてくるようで・・・」
メーテルは膝の上に突っ伏すと両腕で膝をくるんと抱きこんだ。
何かを胸に抱きこんで寄りかかるように体をくるんと丸めるのは、メーテルの幼い頃からの癖だった。
「やっぱりあの時別れておくべきだったのかしら・・・・これからずっと、鉄郎はどんどん大人になって歳をとって行くのに、私はそのままで・・そのうち鉄郎がおじいさんになったら、きっと私より、どこかのおばあさんに惹かれていくんだわ・・私の入る余地はほんの一時しかないんだ、そう思うと辛くて悲しくて・・・」
メーテルには悪いが、最後はエメラルダスは思わずずっこけそうになった。
エメラルダスは、こめかみに掌を当て大きく溜息をついた。
「ほんっとにあなたって、忙しい人ねえ・・・よくもまあ、そこまで考えが及ぶこと・・・」
いつの間にかバスルームの明かりが消え、ドライルームの物音も止んでいた。
エメラルダスには鉄郎の気配を感じ取れなかったが、
(本当に、見事なほど気配を感じさせない男ね。メーテルが不安になるのも、無理は無いか・・・)
エメラルダスは敢えて気にかけず、メーテルの告白に耳を傾け続けた。
「・・・・そうよねえ、私もそんなことばかり考えててバカみたいって思うんだけど・・・でも、鉄郎はまだ17歳なのよ。17歳・・・・これから未来が一杯開けている子なのよ・・それなのに、私が彼を束縛している・・私のせいで・・彼が自由に羽ばたいて行くその芽を摘み取っているように思えて仕方が無いの・・・そう思うと、やっぱり鉄郎について行くべきではなかった・・・あの時あなたの忠告を素直に守って、やはり一緒に行けない、って鉄郎にきっぱり言えばよかった」
メーテルの眼から涙が零れ落ちた。
「そうかしら?ねえ、メーテル。鉄郎は貴女のことを重荷に思ってはいないと思うわ。むしろ、あなたが幸せになれるように必死になってる・・・私と一緒にいる間、鉄郎は色々話してくれたわ。彼、医師を目指して大学受験するんですって?貴女を元の体に戻すために・・・すごいじゃない。普通誰しも考え付かないわ。誰かのために何かを成し遂げようなんて。私にそのことを話している間、鉄郎の眼差しは生き生き輝いていた。」
「・・・・・」
「私には鉄郎があなたに縛られているなんて思えない。彼の眼は、護る者を得た一人前の男の眼差しだった。」
「鉄郎は・・・・無理してる・・・とっても・・・私、鉄郎に―――――」
メーテルは頬を伏せた。コップが音を立てて足元に転がり落ちた。
バスルームから出た鉄郎は、そのときクローッゼットの中にいた。バスルームのあるキャビンと寝室は、ドライルーム越しに細長く広いクローゼットを通って出入りが出来るよう繋がっていた。
寝室との薄い壁越しに、メーテルとエメラルダスの会話がクローゼットの中の鉄郎にはっきり聞き取ることが出来た。
クローゼットのドアが少し開いていて、寝室のメーテルたちの姿が垣間見えた。
すぐにでも二人の前に飛び出していきたかったが、今二人の間に割り込むことは許されないような気がして出来なかった。
バスローブを纏ったまま彼は壁にそっと寄りかかり薄暗い虚空を見つめた。
メーテルの声が嗚咽とともに鉄郎の心に突き刺さる。二人のやり取りに、そっと聞き耳を立てた。
「―――――が欲しいっていってしまった・・だから・・・」
泣きながら叫ぶように放たれるメーテルの声。
「メーテル・・・」
唖然としたエメラルダスの声。
「鉄郎に無理をさせてしまってる・・・私は、絶対無理よ、不可能だって言ったのに・・鉄郎は、今は無理でも、元の体に戻れたら可能性はあるっていって・・冥王星の氷の墓場に閉じ込められているのよ。もう、二度と元の体に戻ることは無いだろう、って、冷凍保存というにはあまりにも無造作に、氷の中に他の死体と一緒に並べられているのに・・・どう保存され続けていたのかわからない体なのに・・無事、元の体が甦生できるかどうかもわからないのに・・・・そう鉄郎には説明したのに・・・ダメでもともと、やって見なければわからないって、鉄郎はそう言って・・・・鉄郎に申し訳なくて・・・・」
鉄郎はドアに近づく。
泣きじゃくるメーテルの背中をそっと抱くエメラルダスの後姿がドア越しに垣間見えた。
「でもね、メーテル・・それは、愛する人が現れたら湧き出てくる自然な気持ちよ。その気持ちは大切にするべきよ。貴女の元の体のことはどうなのか、わからない。けれど、今は鉄郎を信じることね。今の私には、それしか言えないけれど・・・でも、お父様は、貴女の人生を決して無駄にはされなかったと思うの。何故だか解らないけれど、私にはそう思える・・でないと、わざわざ冥王星にラボを置き、超量子コンピューターを稼動させ続け、あなたを元の体にいつでも戻せるようにしておかれたりはなさらない。あとはそれを稼動できる技術者が必要なだけじゃない?」
「エメラルダス・・・」
「鉄郎を信じて、ついて行きなさい」
エメラルダスの肩にメーテルは頬を寄せた。
優しく抱きあう二人の姉妹の姿を見届けると、鉄郎はクローゼットのドアをそっと閉めた。
闇の中に目を凝らす。
目が慣れるに従い、暗闇に包まれた周囲の光景がやがて薄ぼんやりと、次第にくっきりと闇の中から浮かび上がる。
壁にはめ込まれたワードローブ。
スライド式の扉に備わる姿見の前に立つ。
するりと紐を解く。
衣擦れの音とともにバスローブが足元に滑り落ちた。闇に浮かぶ裸身。
鏡の中に闇を背後に陽炎の様に映し出された自分の姿を見た。
唾棄したくなるほど幼い姿。細いからだ、か細い手足・・・いまさら見せ付けられる現実・・・・
拳で鏡を殴りつけたい衝動に駆られた。鏡に手を伸ばすと両手でもたれ掛かり項垂れた。
自分は、メーテルの思いに応えてやれるのか・・・・エメラルダスの前に誇りを持って立てる男になれるのか・・・・
闇に浮かぶ自分の影がゆらゆらと揺らめく。
強くなりたいーーーー
心の底から願う・・・
男らしさ、男を振りかざしたいとは思わない。
しかし、メーテルを護り抜く力が欲しかった・・・
「どう?少しは落ち着いた?」
エメラルダスはメーテルが泣き止むまで頬を寄せ肩を抱き続けた。
「ごめんなさい・・・貴女にまで迷惑をかけてしまって・・・」
時々しゃくりあげながらメーテルはハンカチで顔を押さえた。
「ばかね、姉妹じゃないの。それよりほら、早く涙をお拭きなさい。鉄郎に泣き顔を見られるわよ」
二人の背中越しに、クローゼットで物音を立てる鉄郎の気配がした。
メーテルはエメラルダスから慌てて離れると急いで涙を拭いた。
エメラルダスは枕元に置いてあった目覚まし時計を何とはなしに弄んだ。
「鉄郎ったら、私の知らないところでいろいろやらかしてきたみたいね。時間城の宝物のことまで話してくれたわ。有機体還元装置稼動のための資金ですって?・・機械化伯爵には、いい浄財よ。」
「私も驚いたわ。今まで誰も思いつきもしなかったことをやってのけるのだもの・・・」
それにしても、とエメラルダスは言葉を継いだ。
「今夜ずっと彼と一緒だったけど、鉄郎ったらすごい食欲ね。おまけに、一度に30センチも背が伸びたんですって?驚いたわ。」
メーテルはハンカチをしまい立ち上がると、傍らの鉄郎のベッドに無造作に放り出されている彼のジャケットを手に取った。
「今までではないわ。今もなの。・・・この服、つい2ヶ月前に買ったんだけど、もう丈が短くなってしまって・・・また新しい服を買わなければならないのだけど、一月に5センチも6センチも背が伸びるから、新品の服はとてもじゃないけどもったいなくて、古着屋で済ませてしまうのよ」
振り返りながら微笑むメーテルの眼差しは、明るく穏やかな輝きに満ちていた。
その眼差しにエメラルダスは安堵したものの、それにしても・・・
「一月に5,6センチも背が伸びるですって!?」
信じられないわ、と呟くエメラルダスに、メーテルはしみじみと語った。
「そう、私もびっくりしたわ。最初に気付いたときは、にわかには信じられなくて・・あっという間に大きくなってね・・・・
もう、私の背丈と並んでいるのよ。まだ伸びるわ、これから」
エメラルダスは、考え深げに呟いた。
「そういえば、おかしな話ね。17歳といえば、体はもう大人の筈・・・それなのに鉄郎は声変わりすらしていない・・」
メーテルは鉄郎のジャケットを手でそっとなぞった。
「ええ・・佐渡博士も、鉄郎のあの成長の仕方は普通じゃ考えられないとおっしゃってたわ。ひょっとすると、彼は、突然変異、かも、知れないって・・・私も彼の体のことは、よく解らない」
でもね、とメーテルは振り向いた。
「ゆっくり時間をかけて大人になっていったらいいと思ってる。私はずっと待っていられるから・・・」
「メーテル・・・」
鉄郎のジャケットを抱きしめながら、彼ったら、背が高くなったら、頬のラインもシャープになって、髪を耳が見えるくらいに切ったら、すごく可愛くなっちゃった、と微笑むメーテル。
そんな彼女をエメラルダスは、やれやれとばかりに見上げた。
「いとしのマイ・ダーリンですか?ご馳走様・・・」
からかうエメラルダスにまたまたメーテルのほっぺは真っ赤っ赤。
「そっ、そんなのじゃないけど・・けれど、なんだか鉄郎の言うことがどんどん現実になって行ってるように思えて・・鉄郎、先日行われたギャラクシー・ユニヴァース共通試験で最高得点順位者の中に入ってたのよ。」
「へえ、そうなの。見かけによらず秀才なんだ・・・」
うろたえてやっきになって鉄郎との関係を否定して見せるかと思えば、うきうきと彼の話題に興じるメーテルの姿に、エメラルダスは密やかに微笑んだ。
鉄郎のことになると酷くむきになったり取り乱したり・・・余程鉄郎に惚れとるな、これは・・・
いろんな垣根やしがらみを振り切って初めて鉄郎と素のまま向き合うことが出来たメーテルの、素直な思いがぽろぽろ零れ落ちてくる。
喪服を纏うようになってから、悲しい眼差しを向け、誰に対しても心を閉ざし続け、決して自らの心のうちを明かそうとはしなくなったメーテルが、率直な思いをぶつけるようになった・・・彼女の大きな心の変化にエメラルダスは驚きを禁じえなかった。
これも鉄郎の力・・・・?
「ね、すごいでしょ?だから、チェルムスフォード入学も、医師になることも、彼の夢想なんかじゃない、鉄郎自身の確かな実力が根拠になっているの・・・だから、安心して彼に身を委ねて行ける・・けれど、私のために無理はして欲しくない・・・複雑ね」
「・・・」
「おーい、メーテル、俺の新しいランニングシャツ知らない?」
クローゼットのドア越しに、鉄郎がメーテルを呼んだ。
「ああ、もうっ、ごめんなさい、ちょっと待っててね・・」
エメラルダスに言い残すとメーテルはそそくさとクローゼットの中に入って行った。
そんな彼女の後姿を見送りながら、おやおや、と思う。
「あなたがちゃんと仕舞っておかないから・・」
「仕舞ってたよ?ここに、買ってすぐに・・」
「ほら、ここにあった・・・しっかり探せばあるじゃないの・・」
エメラルダスの口元に、小さく笑みがこぼれた。なんだかんだいって、二人とも仲直りのきっかけが欲しかったのだ・・・
壁の向うの二人のやり取りを聞きながら、エメラルダスの胸に、ふと寂しさがこみ上げてきた。
トチローの顔とまゆの笑い顔が入れ替わり胸に浮かんできた。
弄んでいた置時計を枕元に返すと立ち上がり、無言のまま部屋を出て行った。
「お休み、おふたりさん・・」
心の中で呟くと、そっとドアを閉めた。
帰る道すがら、二人のいるホテルを振り仰いだ。時限爆弾は、爆発するかしら?生真面目で堅物のメーテルのことだ、不発に終わらせるでしょうね・・・
と、コートのポケットの中の携帯電話に着信音・・
「もしもし・・・」
「もしもし、お母さん?」
受話器の向うから幼い少女の声。
「!!まゆ!!」
「お母さん、どこにいるの?もう、みんなデス・シャドウ島に来てるのよ。ママも、おばあちゃまも、お兄ちゃんも、ハーロックやみんな待ってるのよ」
「ああ・・ごめんねえ・・ちょっと待ってて、すぐ行くから・・」
目頭に熱いものが込上げてきた。
もう、抑えることは出来なかった。
「あのね、お母さん。お父さんがすごいもん作ったんですって。早くお母さんにも見せてあげたいって。お母さん絶対びっくりするからって言ってたよ」
うん、うん、と頷く電話の向うから、愛娘の声が聞こえてくる。
もう、矢も盾もたまらなかった。
その夜のうちにさっさとホテルを引き払うと、宇宙目指して飛んでいった。